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  • mnobushi

マインドセットとピグマリオンと再現性と

Carol Dweckという研究者に「Mindset」という有名な著作があります。日本では「『やればできる!』の研究」という翻訳で知られています。彼女が有名になったきっかけは、彼女の行った、ほめ方によって子どもへ影響が変わる、という実験にあります。


その実験は以下のようなものです。

10-12歳の、かなり難しい問題に対して優秀な成績を残した子どもたちを2つのグループに分けます。そして一方のグループは、その能力(知能)をほめます。もう一方のグループはその努力をほめます。

その後新しい問題にチャレンジする機会を設けると、能力をほめた前者はチャレンジしないのに対し、努力をほめた後者の多くはチャレンジする、という結果になりました。

つまり、能力ではなく努力をほめることで、子どもたちは努力する動機づけが上がるということで、上手に子どもをほめるにはこのようにしよう、という示唆を得ることができます。


しかしこのインパクトのあるDweckの実験結果に関しては最近、再現性に疑問があるという意見が出ているそうです。



Portsmouth大学の大規模調査やPrague経済大学の調査によれば、有意差は見られず、時に反対の結果も出たとされています。Victoria Siskの行ったメタ分析でも、Dweckの主張は誇張されたものという結論が出されています。


ここ数年、心理学の世界を席巻している「再現可能性問題」ですね。

ちゃんと考えなければいけないことなのでしょうが…。






再現可能性問題について、私が勘違いしていたこともあります。

有名なRobert Rosenthalの「ピグマリオン効果」についてです。


これは最初にダミーのテストを行い、学力成績が同じになるように2つのグループに分けられた生徒の一方がもう一方より「今後成績が伸びる可能性が高い」と教師に教えます。すると8か月後の学力テストでは、伸びる可能性が高いとされたグループの方が、実際に成績が伸びた、というものです。


これがよく誤解されるのが、決して教師が伸びる可能性のある生徒たちを日常的にほめていたわけではなく、「他者から期待をかけられてほめられる生徒が伸びる」というものではない、ということです。よく教育現場で誤用されていますが。

あくまでピグマリオン効果とは、何らかの期待を抱いている教師が、無意識のうちに、期待している対象に対して期待通りになるように関わってしまう結果として、生徒のパフォーマンスが変わる、というものなのです。


そしてこのピグマリオン効果も、上記のDweckの実験と同様、再現可能性がない、と長らく批判されています(Spitzの再現実験などで)。

私自身もそれを信じて、講義の中では「疑わしいものではあります」と言ってきた経緯もあります。


しかし、どうやらRosenthalは2002年の「Improving Academic Achievement: Impact of Psychological Factors on Education」という本の中で、この再現性問題についてすでに反論していたようなんです。

そこでは、ピグマリオン効果の追試として500弱の研究でポジティブな結果が再現されているとあり、これが本当ならかなりの追試を行っているということになります。 ここまでエネルギーを使って再現不可だったという批判に反論しているのは、知りませんでした。ひょっとするとピグマリオン効果も、この先頑健な知見として再びスポットが当たるかもしれません。


科学的な研究であるために、私たち研究者は心を砕かなくてはいけないですし、それを学生に講義する際にも気を付けていけないことです。日々頭の中をアップデートしていきます。

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